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名古屋地方裁判所 平成2年(わ)768号 判決 1990年7月31日

本店所在地

名古屋市西区二方町四五番地

名西鉄構建設株式会社

(右代表者代表取締役 松本要)

本籍

同市天白区八幡山五〇五番地

住居

同所同番地

会社役員

松本要

昭和五年八月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官中山敬規出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人会社名西鉄構建設株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人松本要を懲役一年に処する。

被告人松本要に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社名西鉄構建設株式会社(以下、「被告人会社」という。)は、名古屋市西区二方町四五番地に本店を置き、鉄骨加工組立並びに工事請負等を目的とする資本金一二〇〇万円の株式会社であり、被告人松本要(以下、「被告人」という。)は、同会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空原材料費及び架空貸倒損を計上し、あるいは、未成工事支出金を完成工事原価等に振り替えて当期の費用として計上するなどの方法により、所得を秘匿した上、

第一  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億一五五四万二二五五円であつたにもかかわらず、同年六月一日、名古屋市西区押切二丁目七番二一号の所轄名古屋西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六一三六万七三一五円で、これに対する法人税額が一七八五万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額四一三一万一〇〇円と右申告税額との差額二三四五万七七〇〇円を免れ、

第二  昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一億九二四三万六六二五円であつたにもかかわらず、同年五月三一日、前記名古屋西税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五九四三万三二二九円で、これに対する法人税額が一七八八万六七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額七三七四万八〇〇〇円と右申告税額との差額五五八六万一三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  川内敏榮、吉田信治及び多木忠義の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

判示冒頭、第一の事実について

一  橋本文也の大蔵事務官に対する質問てん末書

判示冒頭、第二の事実について

一  森瀬敏彦の検察官に対する供述調書

判示冒頭の事実について

一  名古屋法務局登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官証拠請求番号甲2)及び証明書(検察官証拠請求番号甲19)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官証拠請求番号甲3)及び証明書(検察官証拠請求番号甲20)

(法令の適用)

一  被告人について

被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

二  被告人会社について

被告人の判示各所為はいずれも被告人会社の業務に関してなされたものであるので、同会社に対し、判示各罪についていずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項及び情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人会社を罰金二〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、鉄骨組立工事を主な業務とする被告人会社の代表者である被告人が、被告人会社に関し、二事業年度にわたり合計七九三一万九〇〇〇円の法人税を免れた事案である。ほ脱税額は右のとおり多額であり、ほ脱税率も平均で約六五パーセント以上と高率である。犯行態様も、架空経費の計上のために、取引のない会社に協力を頼み、それに対して礼金を払うなど種々の巧妙な手口によるもので悪質である。更に犯行の動機をみるに、被告人は、当公判廷において、景気に左右されやすい鉄骨業界で生き残るためにはある程度の資金を作っておく必要があつたことのみを強調するが、脱税による利得は、全て被告人やその家族名義の預貯金等に回されていることなどからすると、被告人が捜査段階で供述しているように個人資産を増加させる意図も充分に有していたというべきである。加えて、このように不正に税を免れる行為は大多数の善意の納税者の納税意欲を阻害するものであつて、社会に及ぼした影響も決して小さいものではなく、以上の点にかんがみれば、被告人及び被告人会社の刑事責任は重いといわなければならない。

しかし他方、被告人が、捜査段階当初から犯行を認め、贖罪寄付をするなど反省悔悟していると認められること、違反に伴う修正本税、重加算税、延滞税の全てが納付済みであること、被告人会社が、名古屋市水道局等から一か月間の指名停止処分を受けるなどの社会的制裁を受け、また、外部から新たに会計担当者等を迎えて経理体制の改善に努力していること、被告人に前科前歴がないことなど被告人らに有利に斟酌すべき事情があるので、これらをも考慮した上、被告人らを主文掲記の各刑に処し、被告人についてはその刑の執行を猶予することとした。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大山貞雄 裁判官 半田靖史 裁判官 山崎秀尚)

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